THE長文日記

長文とか短文とかのクレームは一切受け付けません

愛する人のために人を殺せるか

 桜を見て、ジムでパーソナルトレーニングを始めてからもうすぐ一年になることを思い出した。

 もともとはダイエットが目的だったんだけど、体重は多少減ったものの、そこまで変化してない。


 ただ、筋肉量だけでいえば確実に増えていると思う。

 最初の頃は20kgのバーベルの棒だけで貧血で倒れそうになっていたのが、今では80kgのバーベルを背負って10回スクワットできるようになった。


 最初の頃は毎回目が回りそうなくらい疲れて、地下にあるジムから文字通り這い出る感じで階段を這っていたが、今は平気でトントンと階段を登っていける。


 体重はそれほど減ってないが体型は少しずつ変化してきた。


 家に戻ってBCAAを飲み、やりかけの仕事をやっつけたあと、季節も春だし久しぶりに軽く有酸素運動でもするかと思って新宿までレンタル自転車を走らせた。


 むかしは毎日のように行っていたゴールデン街とも最近すっかりご無沙汰だ。というか飲み屋そのものに昔ほどいかなくなった。

 

 バー図書室に滑り込むと、見知らぬ女性が一人で立っていて「あれ?のんちゃんは?」と思ったが、数瞬の間を置いて目の前の見知らぬ女性こそがのんちゃんだと認識した。たぶんAIでも識別は難しいのではないか。


 それくらいのんちゃんのイメチェンは激しかった。


 何度か見たことがあるので頭のなかで強化学習が走り、「これは見知らぬ女性ではなくのんちゃんである」という推論を導くことができたわけだ。


 「さいきん、どんなのがお勧め?」


 このお店は漫画がいろいろ揃えてあって、僕はたまにきてはのんちゃんに最近のおすすめ漫画を聞くのが楽しみになっていた。彼女の勧める漫画は、良いものも悪いものも、どちらにつけても僕の心に少しのさざなみを起こさせる。勧められた作品を好きだ、とか、嫌いだ、とか言っても怒られない。


 「これなんか好きじゃないかな・・・あ、一巻がないなあ・・・」


 「へー、どういう話?」

 

 「うーんとね、娘の彼氏と鉢合わせした父親が、彼氏を殺しちゃうの。それで、実はその彼氏はけっこうスジの悪い人たちの仲間で、父親はその彼氏が死んだことを悟られないように完全犯罪をやろうとするんだよね・・・。それでそのスジの悪い人たちと知恵比べみたいになるという・・・まあデスノートみたいな感じかな」


 「おもしろそう」


 さっそく僕はその作品をKindleで買った。


 便利な世の中だ。いまここにない一巻がすぐ手元で読めるようになる。


 主人公は47歳の会社員。娘は18歳で独立したばかり。

 大学に入って早速スジの悪い彼氏が出来て、DVを受けているらしいことを知る。どうも彼氏は過去にも付き合っていた2人の女性を殺して罪に問われていないらしい。


 それどころか、その彼氏は娘を利用して資産家の主人公の妻の実家の財産を狙っているらしい。このままでは娘が殺される。


 とっさの判断で彼氏を殺した主人公は、完全犯罪で家族を守ろうとする。


 怖い話だ、と思った。

 もしそういうことが現実に起きたとして、自分は同じ行動をとるだろうか。正直分からない。


 リアリティがありながら、どこか現実離れしたコミカルな展開。

 大真面目なのにギャグのような主人公のふるまい。


 確かにデスノートに近い。

 ただ、デスノートの場合、殺人の道具がデスノートという架空の道具で、死神や死神の目といった飛び道具が重要な役割を果たしていた。


 ところが、この作品ではシチュエーションそのものは現実にありそうな話である。 

 本当にそんな回りくどい方法で資産家を脅迫する犯罪者がいるかどうかはわからないが、わからないからこその迫力がある。


 デスノートの場合、当初の敵は警察組織だったので、敵の行動範囲にある程度の制約(適法でなければならない)があった。


 そこが物語を面白くしていたのだが、この作品の敵はそもそも法律が通用しない相手である。


 先が読めないという意味ではデスノートの上をいく。

 久しぶりに三巻まで一気読みした。




 のんちゃんありがとう