THE長文日記

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教養としてのサイバーパンク

 なんか最近たまにPowers of Tenを知らない人が居て、おお、教養は失われてしまったのかと嘆く日もある。



 下手すると僕が生まれる前に作られた映像だが、学校の授業で見て以来、そのダイナミズムはものすごく脳裏に刻まれている。見てない人は見るべし

 これはマクロの視点からミクロの視点まで一直線に繋ぐ凄い映像で、映像表現というものの可能性と、科学の扱う範囲の幅広さをわずか数分に凝縮したものである。


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 この映像を作ったのは、家具デザインの大家、イームズ夫妻である。

 イームズの椅子がどうとかくだらん講釈を垂れる前にこの映像を見るべきなのだ。

 CGが一般化する以前にこれほどシームレスに見事に場面を繋いでいるというのがまず凄いし、こんな映像を作ろうというイマジネーションそのものが白眉である。


 しかし自分がなんでこんなにPowers of Tenに親近感を感じているのかというと、今調べて知ったが、Powers of Tenに日本語のナレーションをつけたのは子供の頃よく通っていた新潟県立自然科学館だったらしい。


 この映像は子供心に衝撃的で、その後、僕が物事を考える基礎になっている。

 椅子だけじゃないんだイームズ。むしろ椅子よりもこの映像の方が価値が高い。そうとさえ思える。



 さて、幸か不幸か、僕が育った70-80年代というのは空前のサイバーパンクブームだった。

 とはいっても、サイバーパンク自体はサブカルチャーのいちジャンルに過ぎず、別にサイバーパンクを知らなくても生きることはごく当たり前であり、知らないまま死んでも特に害はない、というものでしかなかった。


 しかし、サイバーパンク的イマジネーションが、今の世界を作ったと言っても、やはり過言ではないのではないだろうか。


 サイバーパンクの古典といえば、1984年のニューロマンサーである。


ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)


 何度も読んでるが、僕は読み終わるのに10年掛かった。

 何度読んでも寝てしまうという伝説的な書籍である。


 この中に、仮想空間と脳の直結による幻影、電脳空間(サイバースペース)、そしてその象徴としての"マトリックス"が現れる。


 映画「マトリックス」はニューロマンサーの映像化をしようとして、無理なので違う話を乗っけたストーリーといっていい。実際、Wikipediaにはそういうエピソードが掲載されている(https://ja.wikipedia.org/wiki/ウィリアム・ギブスン#.E6.98.A0.E5.83.8F.E5.8C.96.E3.81.95.E3.82.8C.E3.81.9F.E4.BD.9C.E5.93.81)


 

 「マトリックス」も今となっては古典映画の部類だが、ギブスンの重要なギミックが凝集され、映像化されていることは特筆に値する。


 ちなみにもちろん攻殻機動隊ニューロマンサーの影響を受けている。攻殻機動隊に影響を与えた作品としては他に「マイクロチップの魔術師」がある。

マイクロチップの魔術師 (新潮文庫)

マイクロチップの魔術師 (新潮文庫)


 このへんの洗礼を受けた人たちが、マトリックス以前に見ていた映像といえば、ブレードランナーは当然として、やはりマックス・ヘッドルームだろう。


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 マックス・ヘッドルームはなんとDVD化されていない。

 より正確には、なぜかパイロット版(劇場版)だけがDVD化されていて、TV版はDVD化されていない。したがっていまの若い世代は見ることがほとんど不可能である。



 で、正直、劇場版はいちばんつまらない。

 というのもこの奇抜な設定に、制作者自身が振り回されている感があるのだ。


 マックス・ヘッドルームの舞台は「20分後の未来」


 世界は全地球規模のテレビネットワークで囲われ、貧富の差によって街にはスラムが広がる。唯一の成長産業はテレビ業界で、主人公はトップテレビ局、ネットワーク23の花形テレ・ジャーナリスト、エディスン・カーター。


 しかし陰謀に巻き込まれ、エディスンは瀕死に。そして瀕死のエディスンの記憶をコンピュータが読み取り、コンピュータ上に人格を再構成してうまれたのが人工人格「マックス・ヘッドルーム」である。


 マックスはエディスンが頭に強い衝撃を受けた混乱の中で生まれたのでちょっとおかしい。ちょっとおかしいが人気者のエディスンは死にかけてるし、こいつで視聴率がとれればいいやというかなり投げやりな理由でテレビに出演することになる。まあより正確には、出演させたいと思ってもさせたくないと思っても、マックスは勝手にネットワーク23の放送設備をジャックして自由きままに放送しちゃうんだけど。


 マックス・ヘッドルームの凄いところはいろいろあるんだけど、とにかく後先考えない世界感が凄い。

 たとえば法律で禁止されているものがビデオ録画とオフスイッチ(テレビの電源を切ると罰せられる")だとか、選挙の結果が視聴率で決まるとか、とにかくやりたい放題。


 ああこれぞサイバーパンクだよな、という、ある意味でマトリックスよりもブレードランナーよりもド直球のサイバーパンクが楽しめる。DVD化されてないのは実に惜しい。


 サイバーパンクといえば、ギブスン原作のJMもあった。



 JMの見どころはビートたけし。・・・だけじゃなくて、やっぱりお上品なやつらに対抗するロー・テク軍団が見もの。主人公もキアヌ・リーヴスだしね。

 


 まあとにかく、やはり教養としてサイバーパンクを知っておかないと、これからのVRとかAIとの時代に対応していくのは難しいんじゃないか。


 というのも、先日、Rez Infiniteを作った水口哲也のロングインタビューに参加したときに、驚くほど水口さんがサイバーパンクの人だったっていうのを確認して、改めて、世代は違えど同じ時間軸で生きててよかったと思ったしね。


 日本だと大流行したとは言えないサイバーパンクも、今、その真価が見直されるべき時期に来てるんじゃないの?という気がする。


 というのも、サイバーパンクでは、「コンピュータ上に構成された仮想世界(マトリックス)」や、死人の記憶をそっくり持っていて自律行動できるAI(ROM構造物)、生身の人間に生身の人間がジャックインする、人間をハッキングして操るAI(人形使い)、真価したAIが神のように振る舞う・・・などなど、今まさに人類が直面しつつある問題が全て描かれている。


 もちろん当時の想像力の範囲の中で、という注釈がつくものの、追いついている部分とまだまだ追いつけない部分の両方がとても参考になる。


 ちなみにニューロマンサーはものすごく読みづらいので本当に読むのに10年かかってしまう。

 途中寄り道するのに、同じ世界観の短編もオススメ




 しかしあの傑作、「モナリザ・オーヴァドライヴ」が英語版しかなくなってるのはAmazonのバグ?古本だと1400円・・・まあしかたないか。


 ニューロマンサーとクローム襲撃はKindle版でてるのでぜひ


モナリザ・オーヴァドライヴ (ハヤカワ文庫SF)

モナリザ・オーヴァドライヴ (ハヤカワ文庫SF)


 ちなみにこれは読んだことなかったけど、面白そうなので買った。

あいどる (角川文庫)

あいどる (角川文庫)


 というわけで、やはりこれからの時代、AIをどうにかしようと思ったら、まずサイバーパンクを学ぶのもひとつの方法ではないだろうか