THE長文日記

長文とか短文とかのクレームは一切受け付けません

AIが切り開く21世紀のお気楽ゲームクリエイション または、私はどのようにして心配するのをやめてAIを愛するようになったか

 昨日はUnityインターハイ2016の特番でした。

Unityインターハイ2017

https://inter-high.unity3d.jp

 Unityインターハイはその名の通りUnityを使った高校生の大会です。

 中学生でも応募できるようです。

 

 応募作品を見ると、ものすごくレベルが高くて、90年代ならそのまま市販されててもおかしくないようなものが、完全に個人の高校生の手で作られていることに驚異を覚えました。

 Unityは、僕が高校時代に欲しかったツールそのものです。

 それが存在しないから、僕は3Dライブラリから作る羽目になり、中学時代のぜんぶと高校時代のぜんぶを捧げて、ようやくなんとなくポリゴンが描画できる3Dライブラリを作ることが出来ただけでした。


 ところが今は表現手段としてのプログラミングが、逆説的にほとんどプログラミングすることなしに実現可能です。


 それがUnityを始めとするゲームエンジンの世界です。



 「すげえなあ」


 と思うと同時に


 「やばい、オレたちの仕事ってどう変わっちゃんだろう」


 という不安も同時にあります。

 ところで最新のAIでは、こんなことができます。

https://i.gyazo.com/40dfbd3e3bf32d4ea49cc56054123e2f.png

https://www.youtube.com/watch?v=9c4z6YsBGQ0


 「こんな絵がほしいにゃー」と思って、適当に線を引くと、残りの部分を自動生成してくれるんです。

 まさに「空気を読むAI」とでもいうんでしょうか。


 「このへん、もっと青空広げて」と指示すると、「オッケー、こんな感じでいいっすか?」と適当に青空を広げてくれます。


 興味深いことにこのインタラクションは手書きによって与えるんですね。

 人間が意思表明をするときにいかに視覚的情報に頼っているかわかるというものです。



 さて、僕は心配するのをやめてAIを愛するようになったわけですが、要するにこれは味方につけたほうが得だぞ、ということです。


 さあちょっと想像してみましょう。いまから10年か20年後、AIを使った創作はどう変わるでしょうか。



                  *


 「ふう、今日もいい天気だな」


 ベッドから起き上がったオレは、カーテンを通して部屋に降り注ぐ陽光に目を細めた。

 顔を洗って、ジャージに着替える。


 「さーて、今日はなにしようかな」


 相変わらず、今日も特に仕事がない。

 働いたら負け。


 そんな時代がついにやってきた。

 人類はついに労働から解放されたのだ。

 あらゆる生活必需品はロボットが作り出し、あらゆる生産活動はロボットによって行われる、現代。


 ベッドの上でゴロゴロしていると枕元の端末が微かに振動した。

 メガネ型の端末だ。まあ端末の形などどうでもいい。とりあえず便宜上、メガネ型端末、enchantMOON MkXI(マーク・イレブン)としよう。

 MkXIを掛けると、ゴトーからメッセージが来ていた。

 

 「清水さん、今日ヒマっすか?」


 「ヒマだよ」


 音声入力すると完璧な日本語に変換されてゴトーに送信。MkII上ではゴトーを模した疑似キャラが入力中を意味するジャスチャーをする。


 「オレもヒマなんすよ。カミさんがコドモつれて実家に帰っちゃって」


 「そうか。んー、なんか面白いことないかなあ・・・あ、そうだ。砂漠でもいくか」


 「え、砂漠っすか!?」


 ゴトーの疑似キャラが大げさに驚く。

 まるで本人そっくりだ。


 「今からなら、12時のフライトに間に合う。よし、いくぞ、ゴトー」


 「どこの砂漠に行くんすか?」


 「決まってるだろ、ネゲヴ砂漠だよ」


 使い古しのリーバイスとナイキを履く。今やビンテージとなってしまった、人力製造(ハンドメイド)による服飾品だ。


 マンションの外に出ると、既にタクシードローンが着陸していた。


 「いつ見てもこの座席には慣れないなあ」


 コクピットのように圧迫感のある二人乗りの座席に座り、シートベルトを締めると、ドローンは音もなく飛び立った。仕組みはよくわからないがむかしのドローンからは想像もつかない静かさだ。


 ドローンには既にMkXIから指示が出ている。羽田空港に向かうところだ。

 MkXIに表示。エルアル航空、208便。抽選に漏れたのでビジネスクラスになってしまった。


 この時代、基本的に貧富の差はない。

 ビジネスクラスという名称も便宜上のものだ。いまどき、ビジネスをしているのは趣味人だけだ。

 

 純粋に抽選で座席が決定される。ポイントを使えばファーストクラスに乗れたかもしれないが。


 羽田に着くと、すでに到着していたゴトーがどでかいリュックサックを背負って立っていた。出力品(プリンテッド)のスニーカーとジーンズ。今はみんなそうだ。好きなデザインで好きな素材のものがなんでもプリントアウトできる。わざわざ生の素材を使った服など買わない。


 「なんだその荷物は」


 「ええっ。砂漠に行くんですよね。やはり装備は整えておかないと」


 「いまどきなんでもどこにいても手に入るのにそんなサバイバルグッズを持っていくのはお前くらいだ」


 ネゲヴまでのフライトはすべてが順調だった。機内はガラガラで、満室のファーストクラス以外ではビジネスクラスにはオレたちを含めて5人ほどしかいなかった。オレとゴトーと、キャビンアテンダントが3人。


 「清水さん、CAですよCA。本当にいるんですね」


 「ああ。とはいえ、趣味でやってるんだろ。コスプレイヤーと同じだよ」


 むかしの飛行機にはちゃんとした本物のCAが客室に居た。危険時の誘導や手当を行うためだ。

 しかしすべての人間が働く必要のない現代では、働くということはひとつのレジャーなのだ。


 うやうやしくサービスをしようとするCAを遮り、ドリンクバーに向かう。CAごっこをしたい彼女には申し訳ないが、オレは酒は手酌で飲む主義だ。


 ビジネスクラスのドリンクバーで酔っぱらい、泥のように眠った。

 エイラートからタクシーを拾う。

 この辺は、まだ四輪のタクシーが走っているようだ。

 とはいえこれもやはり無人タクシーだ。運転席にZMPのロゴが見える。


 やっと到着したネゲヴ砂漠には乾いた風が吹いていた。


 「いやー、来ちゃいましたね。砂漠」


 「しかもネゲヴ砂漠だからな。デスバレーとは違うよ」


 「んで、どうするんですか。砂漠に来ましたけど」


 「ん。とりあえず酒でも飲むべ」


 ゴトーが持ってきたレジャーシートを敷いて、空港で買ったアラックという安い蒸留酒をストレートで煽る。


 「砂漠っていいなあ。どこまでも広いんだぜ」


 「そうですねえ」


 見渡す限り誰もいない。


 「よーし、いっちょ砂漠をテーマにしたゲームでも作るか」


 「へえ、どんなのですか」


 「それをこれから考えるんだよ」


 MkXIはメガネに搭載されたAR機能で砂漠にゲームの素案を描き始めた。

 もちろんMkXIがその場で勝手に考えたものだ。


 「えー、砂漠で巨大ボーリング?んー、それも面白いけどちょっとイマイチだなあ」


 オレのMkXIに浮ぶARは、ゴトーのMkXIにも同期する。


 「えー、けっこうボーリング楽しい気がしますけどね」


 「もうひとひねりほしいなあ。もっとオレならではっていうやつが」


 するとMkXIは砂漠に巨大な金属の筐体を描き始めた。

 

 「なんだこれは」


 MkXIのモードがVRモードに切り替わり、実景が全て消え、VR空間上に再構築されたネゲヴ砂漠が表示される。あまりにスムーズな表示に、切り替わったことに一瞬気づかなかったが、次の瞬間、身体がフワッと浮かぶ浮遊感。VR空間を飛んでいるのだ。しかし身体感覚としては地面に足がついているのがわかる。

 

 「こ・・・これは・・・」


 ゴトーは絶句した。

 オレも言葉を失った。


 そこにあったのは、全長120メートルはある、戦艦大和のような超弩級サイズの、炉端大将だった。


 「砂漠で巨大炉端大将ゲーム・・・ですか」


 ゴトーは呆れたように言う。


 「悪くない」


 オレがそう言うと、MkXIが赤いインディケータをチラチラと瞬かせた。まるで喜んでいるように思えた。


 この時代になっても、いや、なったからこそ、AIは必要とされなければしゃべらない。

 AIが喋り始めると人間が疲れるからだ。AIはごくわずかな接客用のものを除いて自ら喋ることをしない。もちろん、聞けば説明してくれるが、聞いてもわからないし、分かってもどうにもならないから今の時代、誰もAIに理由の説明を求めないのが当たり前になっていた。


 「この巨大炉端大将で、超巨大ステーキを焼いたら楽しいぞ、きっと」


 オレがそう言うと、アフリカゾウティラノサウルスが出現した。


 「いいっすね」


 ほろ酔いのゴトーが、へんな目つきで腰を落とすと、ゴトーの手には白く輝くツーハンデッドソードが握られていた。


 「おまえもアナクロな趣味をしてるな」


 僕も同じように剣を構えるポーズをすると、ライトセーバーが起動する。

 ゴトーと僕がティラノサウルスアフリカゾウをあっさり倒すと、その肉が炉端大将に載せられた。


 「これは現実にはできない迫力だな」


 「そうっすね。壮観っすね。ある意味」


 「このゲームで重要なのは、肉の内部に火が通るかどうかなんだよな。しかしどんな味がするんだ。ティラノサウルス


 「ところで清水さん、これ、ゲームだから実際は食えないじゃないですか」


 「あ、そうか・・・忘れてた」


 あまりにもリアルな画像に、これがVR空間の中であることをすっかり忘れていた。ときどきそういう錯覚に陥るのは20世紀生まれ特有の現象らしい。


 「んー、このゲームちょっとイマイチっすね」


 「そうだな。もうちょっと考えるかあ」


 「砂漠でプログラミングってのはどうですか?」


 「どんなの?」


 するとMkXIは、突然炉端大将と塊肉を消滅させ、巨大な黒曜石の直方体を出現させた。


                  *


 AIが切り開く世界で本当に10年~20年で労働がなくなるかというと、まあさすがに難しいとは思いますが、AIを使った作品制作というのはこのくらい簡単になる可能性があります。


 そのとき要求されるのは、技術というよりも、「いかに人を楽しませるか」という純粋にエンターテイナーとしての能力に変わっていくでしょう。今でも求められていなくはないのですが、今はまだ技術的ハードルの方が高いわけです。それでもUnityは非常に簡単なツールとアセットストアという強力な仕組みによってほとんどプログラミングせずに高度な作品を実現できる土壌が揃っています。


 創作というものが仕事のためにやることというよりは楽しみのためにやることに変わっていくでしょう。

 ディレクターだけが残り、他のすべての作業者はAIに置き換えられるはずです。もちろん、超一流の職人はそのまま残っていくのだと思いますが。


 今のAIについて、知れば知るほど夢は膨らんでいきます。

 

 「そんなもの眉唾なんじゃないの?」


 と思う人は、まず学んでみたらいいと思います。そのときにAIのプログラミングそのものを学ぶ必要はあまりなくて、AIの仕組みを知り、それに実際に携わっている人たちがどういう目線で物事に当たっているかを知っておくことは決して損ではないと思います。


 というわけで、昨年「人工知能は人間を超えるか」が大ベストセラーになった東京大学の松尾豊先生を始めとして、トヨタNVIDIA、YahooJapan、などなどで実際に人工知能研究の最先端にいる人達にインタビューをしながら、最先端の人工知能はどこまでできるのか、このあとどこまでできることが期待されているのか、人工知能について今わかっていることとわかっていないことをまとめた本がようやくできあがりました。

 

 Amazonにまだ書影が出てませんが、こんな感じの本です。

https://i.gyazo.com/3d914c47310e29221db5fe132fb9d9aa.png


 今Amazonで予約すると10%引きで買えます。

 全300ページ以上で、たぶん僕の書いた本の中では最大の大きさを誇ります。内容は、人工知能を全く知らない人でも、最先端の話がどうなっているのかわかるように解説しつつ、要所要所で専門家へのインタビューやディスカッションを挿入するというなかなか珍しいかたちの本です。


 購入者対象の出版記念イベントも企画していますのでぜひお早めにご予約ください