THE長文日記

長文とか短文とかのクレームは一切受け付けません

SOCOMピストルと焼きとんオペラ

 薄暗い室内。

 額にじわりと浮かんだ汗を、慎重に指で拭き取る。

 背中に壁のひやりとした感じを意識する。

 この壁の向こう側に、テロリストが居るのは間違いない。


 壁の向こうにいるのは極左テロ組織、通称レッドライン。

 14時間前。

 政府の転覆を狙い、国内に核地雷を持ち込んだという情報が入った。


 当初は神田川近くの廃墟という情報だったが、天候の都合で東十条のライオンズマンションに敵のアジトがあると判明し、銃撃戦になった。

 

 タタタッ

 壁の向こう

 ・・・短い破裂音がする。


 連中のAK47だ。無駄撃ちもいいところだ。

 練度は高くない。



 だがそれはこっちも同じだった。

 急遽招集された予備役兵士達、米国が誇る海兵隊第401特殊任務部隊、通称、イエロースクワッド。


 日本の建物に無粋な米国式デジタルBDU(迷彩服)はいかにも浮いていた。

 連中が肩から下げてるM4カービンも、こんなCQB(近接格闘戦)には不釣り合いだ。


 こちらも無駄弾を連発。連中、さっきブリーフィングを受けたばかりで戦い方というものをまるでわかっちゃいない。同士討ちの心配すらしなくてはならない。



 結局、信じられるのは自分だけと来てる。

 俺は手元の愛銃に目を落とした。

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 H&K Mk23。通称SOCOM(ソーコム)ピストル。

 米軍特殊作戦コマンド、通称SOCOMの要請でドイツの一流銃器メーカー、ヘッケラー&コッホで開発された傑作銃だ。



 バレル下に取り付けられたAN/PEQ-6モジュールは、レーザーサイトとフラッシュライトを追加する。

 特にフラッシュライトは屋内戦では威力を発揮する。

 

 俺は愛銃を握り直し、親指でゆっくりとセーフティを解除する。

 壁から身を乗り出し、片膝をつき、両手で銃を構えた。


 狙いは15メートル先、バリケードのウラからこちらを伺っている敵兵士だ。

 ドクロ模様のマスクをしている。


 カッコつけているつもりか。

 いい的だ。


 三発正確に打ち込む。ターゲットはダウン。

 1キル。


 「・・ふう」


 フラッシュライトで敵を威嚇しながら壁を回り込んで前進する。

 フラッシュライトの光をまともに見て、一瞬怯んだ敵を両手撃ちでズドン。2キル。


 後方で悲鳴。

 海兵隊のシン・アダチ軍曹だ。

 かれこれ10年以上の実戦経験があるはずだが、後方でやられるとは奴らしくない。



 クソッ・・・スパイか。


 裏切り者がいるらしいという情報は確かに入っていた。

 だが油断した。


 急いで踵を返して引き返す。


 その刹那・・・壁からぬっと海兵隊員が顔を出した。


 スパイだッ!!

 ・・・そう直感しトリガーを引くがその刹那、胸の中心に熱い痛みを感じる。海兵隊のM4カービンが俺の心臓を貫いたのだ。


 ・・・やられたッ!!


 「ヒット」


 屈辱の宣言をして退場する。


 まあ、でも、今日のところは上出来か。


 サバイバルゲームは体力をそれほど使うゲームではない。

 体格による差もでないし、むしろ的が小さい分、小柄な方が有利だから、女性の参加者も最近は増えて来た。


 もともと神田でやる予定だったんだけど、雨で中止になってしまったので板橋の系列店にやって来た。

 フィールドでひさしぶりに安達君を見たら、やばいくらいに太っていた。


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 「・・・痩せよう」


 人の振り見て我が振り直せ。


 屋内はハンドガン一丁で充分だというのが実にいい。

 ハンドガンでサブマシンガンの兵士を打ち倒すのは実に快感だ。

 ダビデゴリアテをやっつけるのに似た興奮がある。


 荷物も少なくてすむ。

 BDUを着ないとマジで弾当たった時に痛いけど。痛くないサバゲーなどないのだ。


 東京マルイSOCOMピストルはつくづく名銃だ。

 フィックスタイプなので集弾率がいい。狙ったところにまっすぐ飛んでいく。

 フラッシュライトも本物より光は弱めだけど充分仕事をしてくれる。


 屋内戦はセミオートのみというルールなので、ハンドガンとサブマシンガンの戦闘力にたいした差はない。むしろハンドガンの方が小回りが利く分、屋内では有利だ。ここでSMGを振り回すのはしんどい。


 まあでも流儀にもよる。初心者はハンドガンを命中させるのはかなり難しいだろう。

 僕は実銃のグロックを撃ったこともあるが、ハンドガンは姿勢を安定させないとまず当たらない。ハードキックのガスブローバック銃などは特にそうだ。実銃のグロックは、手の中でズシっと来るが、その分、脇を絞めて撃てば確実にターゲットを射抜くことが出来る。姿勢ができていれば、銃は暴れないし、集弾率も下がらない。


 キーファー・サザーランド演じるジャック・バウアーの演技がリアルに感じるのは、彼はいざというときにハンドガンを片手撃ちしないからだ。片手撃ちはチンピラのやる撃ち方である。まず当たらないし、集弾もしない。片手撃ちするときは至近距離で確実に当たる場合のみで、屋内戦や屋外戦をするときには決して片手で撃とうとはしない。


 今日のゲームには満足だ。


 時計を見ると、三時を少し回っていた。


 「お先に失礼」


 そう言って、僕は東十条に向かった。


 30分ほど歩くと、人ごみが見えて来た。

 この雨の中、行列をしているのだ。


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 ここ、「埼玉屋」は僕が知りうる限りで最高のやきとん屋だ。

 

 炉ばた大将で炙りの魅力に目覚めた僕は、いまいちど自分の炙りスタイルを見直すため、ぜひ埼玉屋に来たかった。


 シミシュラン2014の格付けで、ステーキにおける格之進Fを三ツ星とするならば、この埼玉屋はやきとん部門の三ツ星と言える。ダントツだ。


 三ツ星の基準は、「そこに行くことが旅の目的に成りうる」ということである。

 サバゲーは、いわば埼玉屋の前座みたいなものだ。今日のメインイベントはこちらである。


 土曜の埼玉屋は特に特別だ。


 まず、3時頃から行列が出来始める。

 この行列に並ぶことをやらないと食べることが出来ない。


 そして4時にお店が開く、行列がぞろぞろと店に入る、するとのれんを仕舞ってしまう。もう入れない。4時に開いて10分で閉店するのだ。


 それから6時までの二時間、やきとんのオペラがスタートする。


 親父さんが軽妙な語り口で材料を見せ始める。

 入店してどこに座るかはバラバラ。


 しかし行列の順番をきちんと覚えていて、並んでいた順に注文を聞いていく。

 凄まじい心配りだ。


 そして宴がスタートする。


 一升瓶のまま凍らせた焼酎による生レモンハイ。

 芸術的に美味い。


 最近、キンミヤが「シャリキン」などといって真似し始めたが、元祖はこちらだと思う。

 基本的に注文はしない。

 向こうから適切なタイミングで「コレ食べる?」と聞いて来る。YESかNOで答えればいい。


 もちろん僕の答えはいつもYESだ。


 一人で行っても、一見でも歓迎してくれる。


 なにより親父さんがお客さんをもてなそう、感動させようという気合いを最大限に入れている。


 素材の選び方ひとつ、炙り方ひとつ、味付けひとつ、どれをとっても超一級品だ。

 初めて食べた人は感動する。

 僕も最初に連れて来ていただいた時は感動した。


 世の中にこんなに美味いものがあるのかと。


 しかも、食材や調味料にしても、決して日本に拘らない。

 フランスやスペインに行って、現地のものをどんどん取り入れている。


 オリーブオイルにハーブにエスカルゴバター、サルサソースといったやきとん屋さんには珍しい調味料も使う。


 それでいて決して高くない。一串150円。これはもう美学だ。


 毎回毎回、来る度に感動する。

 土曜日のお店は一回転しかしない。


 金儲け、というのが完全に二の次になっている店だ、と僕は思う。

 そうではなく、感動を届けることが主体で、価格はその表現手段のひとつに過ぎない。


 なぜ一回転で終わるのか、といえば、仕入れの都合だと言う。

 なるほど、ロスを考えたりすれば、質の低い肉も使わなければならない。

 生ではなく冷凍の肉を使わなければならない。


 全てが生なのだ。

 特に土曜日は材料が少なくなる。かならず売切れる量だけ出してクオリティを維持した方が、欲をかいて二回転、三回転させるより優先されている。


 この潔さ。

 この感動。



 ・・・ダメダこりゃ


 僕は思った。


 ここまで徹底しないとこの感動的なまでの完成度のやきとんは焼けない。

 となれば、僕の炙りなど、埼玉屋の見事なオペラに比べれば、幼児のママゴト以下だ。


 しかしなんと言うか、食うと死ぬほど元気が湧いて来る。

 そんなやきとんなのだ。


 あんまり行列ができると困るのであんまり行って欲しくないが、しかし死ぬ前にぜひ行って欲しい。

 そんなお店だった。


 ハァ、熟成肉に生やきとんに、サバゲーか。


 なんか俺って倖せだな、今、と思った。

 それはつかの間の幻想かもしれないけどさ。